7月15日公開の関連記事にもあるとおり、今年のネパールは、雨による深刻な被害が発生している。とりわけ、山間部での地滑り・土砂崩れによる被害が深刻だ。ネパール政府内の災害担当の部署のホームページで確認できる数字※1によれば、6月12日のモンスーン開始以来、9月4日までの時点で、地滑り・土砂崩れによって、244人の死者、51人の行方不明者、190人の負傷者が出ている。合計618世帯が被害に遭い、建物被害は386軒となっている。被害額は36,448,000ルピー※2だ。さらに、洪水によって死者29人、行方不明者43人、負傷者9人、391世帯が被災し、134軒の家屋が被害を受けた。43,934,000ルピー※3相当の被害が生じている。同じく落雷によって25人の死者と73人の負傷者が発生している。影響を受けた世帯数は142で、10軒の家屋が損壊した。被害額は1,620,000ルピー※4だ。
今年はどうしてこれほど多くの地滑りが発生しているのか。ネパール政府内務省・国家災害危機管理局※5が公表しているところによれば、今年はモンスーン期間中だけでなく、本来乾期にあたる冬の終わりから「プレモンスーン」と呼ばれる春から初夏にかけての期間においても、例年以上の降水が観測されていたという。
記事執筆時点で土砂崩れ・地滑りの合計数は419件に上っており、一時は全国の主要幹線道路にて交通障害が生じていた。ネパールの首都と、カトマンズ盆地外第二の都市カスキ郡ポカラ市を結ぶプリットゥヴィハイウェイも例外ではない。
その最中の8月2日、記者は必要に迫られ、ポカラ—カトマンズ間を陸路で移動した。交通障害は解消されていたが、痛々しい爪痕を見て取れた。その時の記録をお届けする。
※1 同一部署が公表している文書による数字とホームページ上の検索機能による表示結果に相違がある場合は、多い方の数字をこの記事に掲載しています。
※2 約33,185,252円(千円未満は四捨五入)。2020年9月4日記事執筆時点のレート、1ネパールルピー=約0.91円で計算。以下同じ。
※3 約40,001,000円(千円未満は四捨五入)
※4 記事執筆時のレートで約1,475,000円(千円未満は四捨五入)
※5 翻訳は弊社独自のもの。原名:नेपाल सरकार गृह मन्त्रालय राष्ट्रिय विपद् जोखिम न्यूनीकरण तथा व्यवस्थापन प्राधिकरण
「片道2日」の連絡を受け、予定を変更
ポカラからカトマンズへは東へ約200kmの道のりだ。通常運行であれば、大型のツーリストバスで約7時間、ハイエースで6時間の旅となる。もっとも、これらの公共交通は新型コロナウイルス対策のロックダウンで運航停止されている。記者は本来は1週間前の7月26日の移動を計画していた。しかし、その頃全国各地の主要幹線道路上の200箇所に土砂崩れが生じているということが話題になっていた。カトマンズ―ポカラ間の道路でも交通障害が生じているとの情報は入っていたが、予定の日までには通行可能になっているだろうという見立てであった。そこに、ドライバーさんから連絡が入った。
「カトマンズ—ポカラ間は、土砂崩れの影響で道路状態が最悪で、その上カトマンズに入ろうとする車の大渋滞で、片道2日かかるそうです。少し日をずらせますか?」
7月22日に全国一律のロックダウンが解除されたばかりだった。国内線フライトが止まっている以上、陸路移動しか選択肢はない。悪路にもかかわらず、どうしてもカトマンズ盆地に入ろうとする人たちが列をなしていたようだ。本当に片道2日かかるとなると、道中でさらなる土砂崩れが発生して巻き込まれないとも限らない。やむなく、予定を調整することにした。
8月2日早朝5時半、出発
予定を1週間後ろにずらし、8月2日に出発することにした。出発時刻はドライバーさん側の提案で早朝5時。(実際には、5時半の出発となった。)この季節、特に今年の道路状況は実際に走ってみるまで分からない。ハイウェイラジオはない。昨晩新たな土砂崩れが発生しているかも知れず、そうなれば道中で思わぬ足止めを食らう可能性もある。早く出発するに越したことはない。
全国一律のロックダウンが解除されたとはいえ、早朝ということもあってか、この日ポカラを走る車両の数はかなり少なかった。記者の乗った車は、がら空きの幹線道路を快調に飛ばして行く。お互いのコロナ感染を避けるため、窓を開けている。時折行き交う他車が砂埃を舞い上げると、一時的に窓を閉め、収まればまた開ける。ドライバーさんとの会話も弾む。かつてなく、特殊で、快適な旅だ。
しかし、その後各地で災害の現実を目撃することとなった。
土砂災害の爪痕
以下は、道中に撮影した写真と動画である。今回のドライバーさんには土砂災害の取材のために来ていただいたわけではなかったため、走行中の車中からの撮影となってしまっている。また、カトマンズは当時すでに市中感染拡大が噂されていた地域であることから、ドライバーさんの意向でカトマンズ到着後には完全に窓を閉め切っての走行となった。それゆえ、ほとんどの写真で、一部ピンボケしていたり窓の光の反射が映り込んでいるなど、かなり見にくいものとなってしまいってる。ご容赦いただきたい。
(なお、上記の理由から、ここに画像を掲載したすべての状況が今回の土砂災害によるものかどうか確認を取ったものではないという点もご承知いただきたい。)

(2020年8月2日午前8時21分、プリットゥヴィハイウェイにて撮影)

(2020年8月2日午前8時21分、プリットゥヴィハイウェイにて撮影)

(2020年8月2日午前8時35分、プリットゥヴィハイウェイにて撮影)

(2020年8月2日午前8時40分、プリットゥヴィハイウェイにて撮影)

(2020年8月2日午前8時41分プリットゥヴィハイウェイにて撮影)

(2020年8月2日午前8時41分、プリットゥヴィハイウェイにて撮影)
(2020年8月2日午前9時8分プリットゥヴィハイウェイにて撮影)

(2020年8月2日午前10時45分、タンコットのカトマンズ入境地点にて撮影)

(2020年8月2日午前10時51分撮影)
(2020年8月2日午前11時8分撮影)
モンスーンはあと数週間続く
道中に目にした光景は災害の大きさを確かに物語っていた。カトマンズ入境地点でのチェックを終えて無事に入境すると、目的地に到着できたことへの安心感が広がった。思わず、新型コロナウイルス感染の危険が高まっている地域に足を踏み入れたことを忘れてしまいそうになるほどだった。
嬉しいことに、当初の予測に反して今回の旅路はとても順調で、カトマンズ入境地点まで5時間強で到着することができた。しかし、後で知ったのだが、我々の車両が通過した後になって1箇所で土砂崩れが生じていたそうだ。
モンスーンがもたらすネパールの雨期は、平年どおりであれば、あと数週間続く。