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ネパール語の主語①—代名詞に表れる尊敬度の違い

合同会社アジア・パブリック・インフォメーションがお届けする、本気でネパール語を習得したい人のための解説ページ。今回と次回の2回は、「主語」がテーマです。当然ながら、日本語と共通することもあれば、違うこともあります。今回は特に、主語の選び方に表れる尊敬度の違いを詳しく解説していきます。ネパール語ネイティブに対して違和感を与えない主語選びができるようになることでしょう。

ネパール語も、基本的には主語は文頭に

まずは、ネパール語主語の基本的な位置を覚えましょう。ほとんどの言語で共通なのかも知れませんが、ネパール語でも基本的には文頭に主語が来ます。

例えば、「私は、ネパール語を勉強する。」という文を訳すと次のようになります。(敢えて、ここまでの知識で表現できる文型にしています。)

म नेपाली भाषा सिक्ने।

この文の動詞は、「学ぶ」という意味の「सिक्ने」ですね。目的語は、「ネパール語」という「नेपाली भाषा」。主語は、文頭にある「म(私)」です。ちなみに、以前にも解説したとおり、日本語の助詞にあたるものはネパール語にはありませんので、自分で補って理解する必要があります。

このように、ネパール語主語の基本位置は、文頭です。

ネパール語では、主語によって動詞の形が変わる

主語と言えば、学校の英語の授業で習った「二人称」とか「三単現」とか言った言葉を思い出す方も多いかと思います。簡単に言葉の意味をおさらいしておくと、以下のとおりでしたね。

一人称…自分のこと。「わたし」「俺」「わし」「自分」「うち」「拙者」など

二人称…相手のこと。「あなた」「あなた様」「お前」「君」など。(日本語では、場面によっては、「社長」「先輩」「お客さん」「患者様」「○○さん」といった言葉も二人称の主語に含まれてきますね。)

三人称…自分でも相手でもない別の人や物(第三者)。「あの人」「それ」「うちの犬」「例の件」など。

そして、当然のことながら、これらにそれぞれ単数の場合と複数の場合とがありますね。

そして、ここからが今回の肝ですが、ネパール語の場合は、話者の抱いている尊敬の度合いが主語選びに表れます。日本語にもある程度共通することではありますが、ネパール語が日本語と違うのは、どの主語が用いられるかによって、対応する動詞の形が変わる、ということです。

日本語でも、「敬語」、「丁寧語」、「タメ口」といった3パターンくらいの違いはありますが、ネパール語の場合はもっと多いです。一例として、「सिक्नु」がどれほど変化するかを見てみましょう。時制は、現在形です。

主語の尊敬度に応じたネパール語動詞の変化
 単数複数
一人称सिक्छुसिक्छौँ/सिक्छौं
二人称尊敬度最高सिक्नुहुन्छसिक्नुहुन्छ
中/高सिक्नुहुन्छसिक्नुहुन्छ
सिक्छौसिक्छौ
最低सिक्छस्なし
三人称尊敬度सिक्नुहुन्छसिक्नुहुन्छ
सिक्छन्सिक्छन्
सिक्छなし

(注:「二人称尊敬度最高」に対応する動詞の形として別の形が用いられることがありますが、それはいわゆる「宮廷語」のようなものであり、現在の一般的なネパール語としてはあまり用いられていないため、この表には掲載していません。)

全部で7パターンありますね。ネパール語の主語に表れる「尊敬度」の重要性が分かっていただけたかと思います。

では、肝心の主語はどういった形になるのでしょうか。主語として用いられる代名詞の一覧を以下に掲載します。

ネパール語の主語として用いられる代名詞一覧
 単数複数
一人称हामी/हामीहरू
二人称尊敬度最高हजुरहजुरहरू
中/高तपाईं/तपाईतपाईंहरू/तपाईहरू
तिमीतिमीहरू
最低तँなし
三人称尊敬度यहाँ/उहाँयहाँहरू/उहाँहरू
उनीउनीहरू
तिनीतिनीहरू
यिनीयिनीहरू
なし
त्योती
योयी

一覧から分かる通り、尊敬度が関係してくるのは二人称と三人称のみですね。これらは基本的に代名詞ですから、該当する部分に固有名詞を当てはめることができます。その時には、動詞がどの形を取るかによって抱いている敬意の度合いが分かります。(もちろん、これらの代名詞を主語以外の役割で用いることも可能です。)

では、それぞれの「尊敬度」とは実際のところ、どの程度でしょうか。主語に対応する日本語例を挙げつつ、解説していきます。以下のようになるでしょう。

二人称

हजुर …「あなた様」(最高度の尊敬を表わした二人称)

तपाईं …「あなた」(尊敬表現。相手とは、最低でも対等な関係。)

तिमी …「君」「お前」(友人同士や兄弟間で、あるいは親が子に、または、夫が妻に呼びかける時にも使われる。尊敬度は低いが、親しみの表れとなることもある。)

तँ …「お前」「貴様」「テメェ」(相手を非常に見下した表現。しかし、親が子に対して使用するのは一般的で、悪い表現とはとらえられない。兄弟間や同級生同士でもこの表現が使われることがある。)

尊敬と親しみの絶妙なバランス

尊敬度で分けた場合、この4つは上から下に確実に尊敬度は落ちてゆきます。見知らぬ相手や、大人になってから親しくなった友人、あるいは年上の人に「तिमी」を使うと、相手に不快感を与えてしまうことはほぼ間違いありません。(一部地方の方言では、तपाईंの代わりにतिमीに似た表現が使われているが、それは全体からすれば例外的。)ましてや、「तँ」を使うなんてもってのほかです。逆に、相手に「तिमी」や「तँ」を使われたら、相当見下されていると判断できます。

しかし、次の三人称の解説にも通じることですが、ネパール語において物理的な距離は心理的な距離とも関係があり、尊敬表現を使うことと距離が遠いこととの間にも関係があります。

相手を身近に感じれば感じるほど、「हजुर」から「तपाईं」へ、そして「तपाईं」から「तिमी」へと下っていく傾向があります。親が自分の子供に「तँ」を使うことが一般的なのは、極めて親しい関係にあるからです。逆に、いつもは「तपाईं」と呼びかけているのに、その人に対して腹が立っているときには、あえて「हजुर」を使用して感情を表すことがあります。腹が立ってあえて尊敬度を高めるというのは少し不思議ですが、心理的な距離が遠のいたことの表れだと考えれば納得がいきます。もちろん、誰かに対していつもは「तपाईं」を使用していても、何かのことで敬意を感じて、その時はいつもと違って「हजुर」を使いたくなる、ということもあります。興味深いのは、自分が崇める神に対しては、「हजुर」「तपाईं」「तिमी」 「तँ」すべてが使用され得るということです。ネパール語特有の敬意と親しみのバランスですね。

とはいえ、相手が人間となると、年上の相手に対して「तिमी」を使うことはタブーと言っていいでしょう。役所の職員に対しては「हजुर」を使うのが一般的です。中規模以上のビジネスの場では「हजुर」、小ビジネスでは「तपाईं」が一般的です。子供同士が「तपाईं」と呼び合うこともほぼあり得ません。大人が小さな子供に「तपाईं」と呼びかけると、最初は「自分も『तपाईं』って言ってもらえた!」と喜ぶ子もいるかも知れませんが、いつまでも「तपाईं」と呼んでいると、違和感がぬぐえません。夫が妻を「तपाईं」と言うのはよそ行きな感じがあり、「तिमी」を使うのが一般的です。妻に対して「तँ」を使う人もいますが…これは日本語でいえば夫が妻を「お前」と呼んでいることに相当しますので、夫の側と妻の側で受け止め方に違いがあることでしょう。

このように、相手に4つのうちどの単語を使うか、という問いに、単純な答えはありません。相手の立場、TPO、地域、相手との心理的距離などによって変わってくるものです。さらに、ネパールが多民族・多言語の国だということも影響してきます。ネパール語を第一言語としないネパール語話者の中には、誰かが「तँ」という言葉を使っているのを聞いただけで、「言葉遣いの悪い人だなぁ」と感じる人もいるようです。

ネパール語を勉強中の外国人としては、この辺の感覚が十分つかめるようになるまでは「तपाईं」を使用するのが無難な選択と言えるでしょう。自然で、かつ丁寧な言葉遣いを目指しましょう。

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三人称

यहाँ …「こちら」「この方」「こちらの方」(近くにいる人を指して使う尊敬度の高い表現)

उहाँ …「あちら」「あの方」「あちらの方」(離れた場所にいる人を指して使う尊敬度の高い表現)

उनी …「彼」「彼女」「あの人」

तिनी …「その人」「彼女」

यिनी …「この人(女性)」

ऊ …「彼」「彼女」「あいつ」「あれ」

त्यो …「それ」

यो …「これ」

उनी,तिनीहरू,यिनी,उहाँ,ऊ,योなどの不思議な関係

三人称にも、二人称と同じように物理的な距離が心理的な距離とある程度関係しており、それが尊敬度に反映されてきます。

例えば、「これ」「それ」「あれ」を意味する「यो」「त्यो」「ऊ」を考えてみましょう。ネパール語では「यो(これ)」と「त्यो(それ)」は人を指して使うことは基本的には好ましくないとされ、物や動物を指す場合にのみ使用されます。しかし、「ऊ(あれ)」は、人に対して普通に使われます。

もっとも、「実用ネパール語辞典」1という辞書の「यो」の項には「三人称単数で近くにあるものを指す単語」と説明されており、「これは(यो)、私の弟です」という用例が載っていますので、家族内のような非常に近しい関係では「यो」を使って人物を指すこともできるようです。

また、尊敬度「中」に該当する「यिनी(この人)」「तिनी(その人)」「उनी(あの人)」ですが、単に話者との物理的距離によって単語の選択が決まるわけではありません。一般に、「यिनी」「तिनी」は女性に対してのみ使用されることが多いようです。それに対し、「उनी」は、男性も女性も指します。ですが、複数形の「यिनीहरू」「तिनीहरू」「उनीहरू」となると、いずれも男性と女性のどちらを指す場合にも使用されます。

では、尊敬度が高い「यहाँ」と「उहाँ」はどうでしょうか。「この方/こちらの方」と「あの方/あちらの方」という意味です。ですが、少しネパール語に触れた方ならご存知のとおり、実はこの単語は「ここ/こちら」「あそこ/あちら」という場所を表わす単語でもあります。(「そこ/そちら」は「त्यहाँ」ですが、この単語が人物を指すことはありません。)直接人を指す単語を使用せず、場所を指す単語を用いることによって尊敬が表されています。やはり“距離”を感じるのではいでしょうか。

なお、本来「उहाँ」は女性を指しては用いられなかったそうです。女性を表わす代名詞は「उनी」が最も尊敬度の高いものでした。しかし最近は、女性に対して「उहाँ」を用いることも一般化しています。

ネパールのドーナツ屋さん
(ネパールのドーナツ屋さん。ポカラ市にて、2020年2月19日撮影)

さて、もう一つだけ興味深い点に言及しておきたいと思います。

ネパール語主語の代名詞選びには、“距離”だけではなく、複数形は尊敬度を高めることがあるという、日本語にはない要素が関係してきます。

例えば、先にも引用した「実用ネパール語辞典」の「यी」の項目を引くと「『यो』の複数形もしくは中程度の尊敬形」という説明が載っています。それで、もう一度この記事の最初の動詞の変化の表を見ていただくと、「三人称尊敬度低複数」に対応する動詞の形は「なし」なのです。(それでも、やはり家族外の人を指して「यी」が用いられることはないと言っていいでしょう。)「複数形」が尊敬を高めることがある、これはネパール語理解を非常に深めてくれる一つの要素ですので、頭の片隅に置いておかれることをお勧めします。

補足

最後に、いくつかの点を補足したいと思います。

हामी/हामीहरू: 上の表の中で、一人称複数である「हामी(私たち)」に、どういうわけか、さらに「हरू(たち)」がついた「हामीहरू」という表記があることにお気づきになったかも知れません。直訳するならば、「私たちたち」。ですが、一般的によく用いられる表現です。日本語でも、「友達」というのは本来「達」が複数形ですが、「友達たち」という表現も一般に使用されていますよね。同じようなことがここで起きているだけですので、頭をあまり固くせずに受け入れましょう。

तपाईं/तपाई:「あなた」を意味するネパール語は「तपाईं」ですが、ビンドゥ(ं)の無い「तपाई」という表記も街角でよく目にします。あるいは、ビンドゥではなく、チャンドラビンドゥ(ँ)のついた表記が用いられることもあります。いずれにしても、発音はチャンドラビンドゥ(ँ)のついた鼻音です。

自分に言い聞かせる時:自分に対して「もっと頑張らないとダメだぞ」と言いきかせる場合のように、自分に対して語る時には、「तँ」や「तिमी」が用いられます。

まとめ

それでは、今回のまとめです。

  • ネパール語の主語も基本的には文頭にある
  • ネパール語の主語に応じて動詞は形を変える
  • 主語には尊敬の度合いが表れる
  • 二人称では、尊敬の気持ちと親しみのバランス(距離)を知ろう
  • 三人称では、一般的に物にしか使われなかったり、女性にしか使われない代名詞もある
  • 三人称では、複数形になると尊敬の度合いが上がることも

次回は、ネパール語の主語についての続きを解説していきます。主語につく「ले」の用法や、意味上の主語を作ることがある「लाई」の用法、倒置法や、主語がない文などについて解説していく予定です。

(※当サイトを運営する合同会社アジア・パブリック・インフォメーションは、ネパール語翻訳のご依頼も承っております。詳しくは、弊社公式ホームページをご覧ください。)

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