合同会社アジア・パブリック・インフォメーションがお届けする、本気でネパール語を習得したい人のための解説ページ。前回と前々回で、ネパール語の主語についてかなりの量を考察してきました。ネパール語学習で一つのポイントとなるのは、主語に応じて動詞の形が変化するということです。この変化に早く慣れることができるかどうかは、その後のネパール語習得のスピードに影響してきます。
最初は変化の多さに圧倒されるかも知れません。でも、そこは言語です。ちゃんと一定の決まりがあります。その決まりを意識して取り組むと、きっと習得が早いと思います。弊社は、リズムを先に覚えてしまうことをお勧めしています。
動詞の変化、リズムをつかもう
主語ごとに動詞の形が対応するということは、言葉を変えると、主語と動詞がセットだということです。例えば、一人称単数の「म」(私)が主語の場合、それに対応する動詞は必ず「उ(ウ)」の音で終わります。一人称複数の「हामी(私たち)」が主語の場合は、必ず「औँ(オウン:鼻音)」の音で終わります。
これを意識して、自動詞「हुनु」の一形態である「छ」を例にとって考えてみましょう。今回は現在形に限って解説していきます。各主語の尊敬度の違いについては、別の記事「ネパール語の主語①—代名詞に表れる尊敬度の違い 」にて解説していますので参考なさってください。
では、自動詞「छ」が各主語に対応してどう変化するかを見てみましょう。
ネパール語動詞「(हुनु)छ」の主語に応じた変化 | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「छ」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数 | ー | म | छु |
複数 | ー | हामी/ हामीहरू | छौँ | |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | हुनुहुन्छ |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | हुनुहुन्छ | |
単数・複数 | 低 | तिमी/तिमीहरू | छौ | |
単数 | 最低 | तँ | छस् | |
三人称 | 単数・複数 | 高 | यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | हुनुहुन्छ |
単数・複数 | 中 | यिनी/ यिनीहरू/ तिनी/ तिनीहरू/ उनी/ उनीहरू | छन् | |
複数 | 低 | यी/ ती | छन् | |
単数 | 低 | यो/ त्यो/ ऊ | छ |
(ネパール語動詞「छ」が主語によってどのように変化していくかを示している。「यहाँ/ यहाँहरू」は文脈によっては二人称と捉えることが可能な場合もあるが、文法上の分類としては三人称と捉える方が自然である。)
今回大切なのは、右側の2列ですね。「म…छु」「म…छु」「म…छु」「म…छु」…と声に出して何度も繰り返してみましょう。それを、それぞれの主語と動詞のセットでやっていきましょう。「हामी…छौँ」「हामी…छौँ」「हामी…छौँ」「हामी…छौँ」…、「तिमी…छौ」「तिमी…छौ」「तिमी…छौ」「तिमी…छौ」…といった具合です。やがて、「म…छौ」などといった組み合わせが間違いであることにすぐに気が付けるようになりますし、自然と正しい組み合わせで話せるようになります。
尊敬度の高い主語と、動詞の形「हुन्छ」
ここで一つ解説を加えておきたい点があります。それは、尊敬度の高い二人称と三人称の主語に対応する「हुनुहुन्छ」についてです。一見すると、とても短い「छ」が、なんだかとても長い「हुनुहुन्छ」という形に変化してしまったと嫌気がさすかも知れません。しかし、実は、主語に対応して変化している部分は後ろの「हुन्छ」部分のみです。
では、前半の「हुनु」は何でしょうか。これは、「छ」の原形です。尊敬度の高い主語が用いられた場合、動詞は「動詞原形」+「हुन्छ」という形を取ります。過去形や未来形においても変化するのは常に「हुन्छ」部分のみです。
これは「हुनु」以外の動詞に関してもすべて同じです。尊敬度が高い主語の場合は「動詞原形」+「हुन्छ」。覚えておきましょう。
さて、動詞「हुनु」については解説すべきことがとてもたくさんありますので、それについては次回扱う予定です。今回は、他の動詞の変化の形を見ていきましょう。
「छ」以外の動詞の変化形
ここでは、記事「ネパール語動詞の過去分詞『エコ』」にある過去分詞の作り方を思い出すと役に立ちます。主語に対応した動詞の形の変化も、過去分詞を作るときのパターンと同じものです。一部の例外を除いて、各パターンの動詞の「एको」を付ける部分に、上で覚えた主語ごとに応じた動詞の形をつけていけばよいだけです。
では、パターンごとに具体例を挙げつつ見ていきましょう。
パターン①:原形の「नु」の前が母音「आ」または「इ」
最初のパターンは、原形の「नु」の前が、母音「आ」または「इ」となっているものです。実際の表記の中では母音記号として登場します。例えば、「खानु」(食べる)、「हल्लिनु」(揺れる)、「सिद्धिनु」(終わる)などがあります。
この場合は、「नु」の部分の母音を落として「न्」とし、その後ろに各主語に応じた「छ」の変化形を付けます。これだけです。最初に「छ」のパターンでリズムを身につけておいたことが生きてきます。
上に挙げたもののうち、超頻出の「खानु」を例に一覧表にしていますので、ご覧ください。
ネパール語動詞の変化形パターン①(खानु) | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 動詞「खानु」の対応する形 |
一人称 | 単数 | ー | म | खान्छु |
複数 | ー | हामी/ हामीहरू | खान्छौँ | |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | खानुहुन्छ |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | खानुहुन्छ | |
単数・複数 | 低 | तिमी/तिमीहरू | खान्छौ | |
単数 | 最低 | तँ | खान्छस् | |
三人称 | 単数・複数 | 高 | यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | खानुहुन्छ |
単数・複数 | 中 | यिनी/ यिनीहरू/ तिनी/ तिनीहरू/ उनी/ उनीहरू | खान्छन् | |
複数 | 低 | यी/ ती | खान्छन् | |
単数 | 低 | यो/ त्यो/ ऊ | खान्छ |
(ネパール語の現在形動詞が主語によってどのように変化していくかを示している。この表には原形の「नु」の前が母音「आ」もしくは「इ」であるものの変化形が掲載されている。)
前述のとおり、尊敬度の高い主語に対応するのは「動詞原形」+「हुन्छ」の形ですね。「खानुहुन्छ」となっています。

パターン②:原形の「नु」の前が母音の無い子音字
次のパターンは、「गर्नु」(する)、「मिल्नु」(合わさる、適合する)、「हाँस्नु」(笑う)などの原形の「नु」の前が母音の無い子音字の場合です。
この場合は、「नु」を消去し、その位置に、各主語に対応する「छ」の変化形を取り付けます。やはり超頻出の「गर्नु」を例に一覧表をご確認ください。
ネパール語動詞の変化パターン②(गर्नु) | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 動詞「गर्नु」の対応する形 |
一人称 | 単数 | ー | म | गर्छु |
複数 | ー | हामी/ हामीहरू | गर्छौँ | |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | गर्नुहुन्छ |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | गर्नुहुन्छ | |
単数・複数 | 低 | तिमी/तिमीहरू | गर्छौ | |
単数 | 最低 | तँ | गर्छस् | |
三人称 | 単数・複数 | 高 | यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | गर्नुहुन्छ |
単数・複数 | 中 | यिनी/ यिनीहरू/ तिनी/ तिनीहरू/ उनी/ उनीहरू | गर्छन् | |
複数 | 低 | यी/ ती | गर्छन् | |
単数 | 低 | यो/ त्यो/ ऊ | गर्छ |
(ネパール語の現在形動詞が主語によってどのように変化していくかを示している。この表には原形の「नु」の前が母音のない子音字であるパターンの変化形が掲載されている。)
パターン③:原形の「नु」の前が母音「अ」
次のパターンは、原形の「नु」の前が、母音「अ」の単語です。「अ」の母音記号は存在せず、子音字の中に隠れていますので注意が必要ですね。例えば、「सुम्पनु」(委ねる)、「पर्खनु」(待つ)、「फर्कनु」(戻る)などといった動詞です。
過去分詞の作り方と異なるのはこのパターンです。現在形動詞の主語に応じた変化では、このパターンはパターン①と同じ形を取ります。つまり、「नु」を子音化して「न्」とし、その後ろに、それぞれの主語に対応する「छ」を付ける、というものです。
やはりよく用いられる単語である「फर्कनु」を例に一覧表を掲載します。パターン①と全く同じであることをご確認いただけると思います。
ネパール語動詞の変化パターン③(फर्कनु) | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 動詞「फर्कनु」の対応する形 |
一人称 | 単数 | ー | म | फर्कन्छु |
複数 | ー | हामी/ हामीहरू | फर्कन्छौँ | |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | फर्कनुहुन्छ |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | फर्कनुहुन्छ | |
単数・複数 | 低 | तिमी/तिमीहरू | फर्कन्छौ | |
単数 | 最低 | तँ | फर्कन्छस् | |
三人称 | 単数・複数 | 高 | यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | फर्कनुहुन्छ |
単数・複数 | 中 | यिनी/ यिनीहरू/ तिनी/ तिनीहरू/ उनी/ उनीहरू | फर्कन्छन् | |
複数 | 低 | यी/ ती | फर्कन्छन् | |
単数 | 低 | यो/ त्यो/ ऊ | फर्कन्छ |
(ネパール語の現在形動詞が主語によってどのように変化していくかを示している。この表には原形の「नु」の前が母音「अ」のついた子音であるパターンの変化形が掲載されている。)
ネパール語動詞の“姉妹単語”の存在
なお、余談ですが、このパターンの動詞には全く同じ意味にもかかわらずどういうわけか「नु」の前の母音が異なる“姉妹単語”とでも言うべきような単語が存在します。それは、「अ」を「इ」に変えたもので、上記3単語に対しては、それぞれ「सुम्पिनु」、「पर्खिनु」、「फर्किनु」というものが存在しています。この形であればまさにパターン①に該当しますよね。現在形に関してはこういった“姉妹単語”のパターンが同じになるというのも興味深い一致です。
“姉妹単語”が存在するのはこの3つだけではありませんが、このパターンのすべての動詞に“姉妹単語”が存在するわけではありません。例えば、「पक्रनु」(掴む、捕まえる)という単語が「पक्रिनु」という形を取ると、「掴まれる、捕まえられる」という受け身の意味になります。
パターン④:原形の「नु」の前が「आउ」の音
このパターンは、例えば、「आउनु」(来る)、「लगाउनु」(付ける、着る)、「गराउनु」(させる)などのような超頻出単語によく見られます。この場合は、「नु」を取り外し、「उ」にチャンドラビンドゥをつけて「उँ」という鼻音の形にします。その後、各主語に対応する「छ」の変化形を取り付けます。
「आउनु」を例にとった一覧表をご覧ください。
ネパール語動詞の変化パターン④(आउनु) | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 動詞「आउनु」の対応する形 |
一人称 | 単数 | ー | म | आउँछु |
複数 | ー | हामी/ हामीहरू | आउँछौँ | |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | आउनुहुन्छ |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | आउनुहुन्छ | |
単数・複数 | 低 | तिमी/तिमीहरू | आउँछौ | |
単数 | 最低 | तँ | आउँछस् | |
三人称 | 単数・複数 | 高 | यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | आउनुहुन्छ |
単数・複数 | 中 | यिनी/ यिनीहरू/ तिनी/ तिनीहरू/ उनी/ उनीहरू | आउँछन् | |
複数 | 低 | यी/ ती | आउँछन् | |
単数 | 低 | यो/ त्यो/ ऊ | आउँछ |
(ネパール語の現在形動詞が主語によってどのように変化していくかを示している。この表には原形の「नु」の前に母音「आउ」のついたパターンの変化形が掲載されている。)
ネパール語現在形動詞の主語に応じた変化をざっくりまとめると…
こうして見ていくと、多くの場合にある共通点に気が付く方も少なくないのではないでしょうか。まだ気が付いていない、という方は、パターン②以外の3パターン(実質2パターン)の一覧表一番右の列だけを声に出して順番に読んでいってみてください。「छ」の変化形の前に「न्(ン)」の音が入っていることにお気づきになることでしょう。パターン④の「उँ」の音は鼻音ですので、厳密には「ン」の音ではありませんのでカタカナの「ン」と覚えてしまうことはできませんが、近い音ではあります。それで、初歩段階の覚え方として、ざっくり次のようにまとめてしまうことができるでしょう。
基本は、「न्」+“「छ」の変化形”。「आउ」は鼻音化。「नु」の前に母音が無ければ、「नु」の代わりに“「छ」の変化形”。
主語と動詞の形がセットになっているからこそのメリット
最後に、主語と動詞の形がセットになっていることのメリットに触れておきたいと思います。変化形をしっかり覚えようという意欲が湧くかも知れません。
でもちょっと一休み。ネパール語学習で頭を使って甘いものが欲しくなってきたところで、次の日本語を考えてみましょう。
「ケーキを食べる」
食べるのは、誰でしょうか?「私」ですか?「私たち」でしょうか?主語や文脈がないと、分かりませんね。誤解を招くかも知れません。食べ物の恨みは恐ろしいといいますので、気をつけたいものです。
でも、ネパール語なら、、、
「केक खान्छु।」
「केक」は「ケーキ3」です。この場合の主語は当然、「म」(私)です。また、
「केक खान्छौँ」
と言ったなら、主語は「हामी」(私たち)ですね。
「केक खानुहुन्छ」
であれば、主語は「तपाईं」(あなた)や「उहाँ」(あの方)などです。
実生活ではケーキを誰が食べるかが大きな問題になることはあまりないかも知れませんが、何か頼みにくいことをお願いするときなどに相手を名指しすることを避けたいというような心理が働いた場面などでも、この主語省略術は使えます。
頑張ってネパール語学習を続けていけば、いつの日か、主語と動詞の形がセットになっていることをとても嬉しく感じる日が来ることでしょう。
まとめ
では、今回のまとめです。
- 主語とセットになった動詞の形はリズムで覚えよう
- まずは「छ」の変化形を習得せよ!
- 動詞原形の「नु」の前が「आ」「इ」なら、「न्」+”「छ」の変化形”
- 動詞原形の「नु」の前が母音無しなら、「नु」をとって”「छ」の変化形”
- 動詞原形の「नु」の前が「अ」なら、「न्」+”「छ」の変化形”
- 動詞原形の「नु」の前が「आउ」なら、「उँ」+”「छ」の変化形”
- 主語が高尊敬なら、「動詞原形」+「हुन्छ」
- 動詞の形で主語が分かるというメリットは意外と大きい
ネパール語動詞を考える上で、「हुनु」は絶対に避けて通れません。次回は、この「हुनु」を徹底解説していきたいと思います。
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