Webマガジン ニュース・オブ・アジア

ネパール語の受け身(受動文)と言えるものを日本語の観点から解説してみる

ネパールの池
(ネパールのとある池)

合同会社アジア・パブリック・インフォメーションがお届けする本気でネパール語を習得したい人のためのネパール語解説。今回は、受け身がテーマです。これにはネパールの言語学による分類では厳密には「受け身」という扱いを受けていない分野も含まれていますが、日本語でいう「受け身(受動態・受動文)」該当する事柄を日本人に分かりやすいように解説していきます。受け身にならずに習得しましょう。

受け身を作る「इ」

ネパール語の受け身は、動詞の語幹(語末の「नु」や「उनु」を取った部分)に「इ」を付けるだけです。あとは、すでにこのシリーズで解説してきたとおりに、主語と時制に応じて語末を活用させれば完成です。簡単ですね。

例を挙げておきます。

例1)सिक्नु → सिक् + इ +नु → सिकिनु

例2)खानु → खा + इ + नु → खाइनु

例3)दिनु → दि + इ +नु → दिइनु

この法則は時制にも影響されません。「गर्नु」を例に一覧表にしてまとめておきます。なお、現在分詞と過去分詞は厳密には時制の範疇のものではありませんが、形を確認しやすくするためここに入れています。

現在現在分詞過去分詞過去習慣過去未来
गरिन्छुगरिनेगरिएकोगरिएँगरिन्थेँगरिनेछु
हामीगरिन्छौँगरिनेगरिएकागरियौँगरिन्थ्यौँगरिनेछौँ
तपाईं/हजुरगरिनुहुन्छगरिनुहुनेगरिनुभएकोगरिनुभयोगरिनुहुन्थ्योगरिनु हुनेछ
तिमीगरिन्छौगरिनेगरिएकागरियौगरिन्थ्यौगरिनेछौ
उहाँ/उहाँहरू
यहाँ/यहाँहरू
गरिनुहुन्छगरिनुहुनेगरिनुभएकोगरिनुभयोगरिनुहुन्थ्योगरिनु हुनेछ
यिनी/तिनी/उनी
यिनीहरू/तिनीहरू/उनीहरू
गरिनेछन्गरिनेगरिएकागरिएगरिन्थेगरिनेछन्
यो/त्यो/ऊगरिन्छगरिनेगरिएकोगरियोगरिन्थ्योगरिनेछ

使役形も受け身になる

日本語でもそうですが、ネパール語においても使役形の受け身が存在します。例えば、「学ぶ」の使役形は「学ばせる」、「学ぶ」の受け身は「学ばれる」ですが、「学ばせる」の受け身は「学ばせられる」ですね。

ネパール語では、これも動詞語幹に「इ」を付与するだけですので、とても簡単です。

例1)पढाउनु → पढा + इ + नु → पढाइनु

例2)पठाउनु → पठा + इ + नु → पठाइनु

例3)खुवाउनु → खुवा + इ + नु → खुवाइनु

例外

さて、何事にも例外がつきものです。これまでと同じように、受け身になるとパターンにはまらず変わった変化をする動詞がいくつか存在します。例を挙げます。

例1)जानु(行く)

「जानु」はどういうわけか「जा」が「ग」に代わります。受け身は「गइनु」になります。

例2)धुनु(洗う)

「धुनु」は「धु」が「धो」に変わり、受け身は「धोइनु」になります。同じ変化をするものに、やはり組成が似ている「रुनु(泣く)」や「छुनु(触れる)」があります。

例3)हुनु(です/ある)

やはり「हुनु」はいつも特殊ですね。その受け身は、「धुनु」と同じパターンで「होइनु」という形も取りますし、ちょっと変わった「भइनु」という形も取ります。「हुनु」の過去分詞が「भयो」であることを考えると馴染みが全くないわけではありませんね。でも実は「होइनु」と「भइनु」、この2つの使い分けは無さそうです。様々な用例を見てみましたが、どちらも同じ意味で使われています。

例えば、「व्यस्त होइन्छ।」と「व्यस्त भइन्छ।」は、どちらも同じ意味で、「忙しくなる」です。どうして同じ動詞の同じ意味の言い方が2通りになったのか。この辺の事情もいつか知ってみたいものです。

ところで、この記事のテーマは受け身。「होइनु」も「भइनु」も形の上では受け身なのに、日本語の訳としては「忙しくなる」という訳には受け身の要素がない表現になってしまいます。それでも、ネパール語では、受け身の形がとられていますので、何かの要素に影響されてそうなる(そうさせられる)という雰囲気が伝わります。

「今やらないと明日はとても忙しくなる。」という例文を考えてみましょう。

能動文)अहिले गरेन भने भोलि धेरै व्यस्त हुन्छ।
受動文)अहिले गरेन भने भोलि धेरै व्यस्त होइन्छ।

主語の「明日(भोलि)」という日が忙しくなるということは変わりませんが、受動文では「今やらない(अहिले गरेन)」という要素の影響を受ける点がネパール語では表現されています。

動詞が表すことそのものが焦点になるとき

当然ですが、受け身の文では、能動文で目的語だったものが主語に変わります。例えば、「○○さんが、△△に…する」という文を受け身にした場合、主語に来るのは「△△」です。でも、こう単純に能動文と受け身(受動文)が対応しない用法もあります。物事を一般化する用法です。

例えば、「そこではネパール語が話される。(त्यहाँ नेपाली भाषा बोलिन्छ।)」という受動文。能動文に直すとしたら、「人々は」という主語を自分で補う必要があるでしょう。これをせずに「そこではネパール語を話す。」とだけしてしまうと、主語が明確になりません。逆に言うと、誰が話すのかということを敢えて明確化することなく、むしろ一般的な話として言うときに、その目的で受け身が用いられていると言えるでしょう。

実は、ここから関連して、冒頭で触れた、言語学の分野においてはネパール語の「受け身」に分類されていない事柄が関わってきます。

その最たる例として「सकिन्छ」を挙げて考えていきます。

「सकिन्छ」を使ってネパール語の受け身の特殊な用法として考えてみる

「सकिन्छ」は、「सक्नु(できる/終わる)」という動詞の受け身です。無理やり日本語に直そうとすると「できられる」という変な形になってしまいますが、ネパール語ではこの形は頻出です。

まずは下の例文を見てください。ネパール語の会話の中で非常に頻繁に用いられている用法です。

例)अहिले बोल्न सकिन्छ?

これは、「今話せますか?」という意味の文ですが、主語は何だろうとちょっと考えてみてください。

日本語では、「私」が主語だと想定されるかも知れませんが、でもこれはネパール語。「話すことができる」というのは能動文ですので、もし、省略されている主語が「म(私)」だとしたら、最後は「सक्छु」となるはずです。では、「तपाईं(あなた)」でしょうか?そうだとしたら、「सक्नुहुन्छ」になるはずです。

実は、この「सकिन्छ」の主語になっていると言えるのは「話すこと(बोल्न)」です。文法上は「सकिन्छ」と一緒になって述語を形成しているはずですが、意味上はこうなります。「सकिन्छ」という受け身の形をとることで、主語を指定する必要がなくなります。主語を指定する必要がないということは、相手から焦点をずらし、動詞が表すもの(この場合は状況)そのものに注意を向けるという効果があります(客観化)。それで、「話せるあか話せないか」を相手(主語)を責めたり押しつけがましくないような仕方で尋ねることができます。これは、ネパール語の受け身についてぜひ押さえておきたい点です。

一方、目上の相手に対して相手の意志を尋ねたり、自分が話すことを許可されているのかどうかを確認したい場合など、主語が重要になる場面があります。そういった時には、「सकिन्छ?」と尋ねるよりも、「तपाईं अहिले बोल्न सक्नुहुन्छ कि?」とか「म अहिले बोल्न सक्छु?」とか尋ねる方がより適切です。

この、主語から焦点をずらして動詞を表すものそのものに注意を向ける、という用法を理解するため、別の例を挙げておきたいと思います。

例)ए, हिजो त खुब घुमियो।

「それはもう、昨日はさんざん回った(出歩いた/遊んだ)よ。」という表現です。回られたのは街であったり山であったりするわけですが、それを考えるのは変ですね。誰が行ったのかということもここでは焦点ではありません。「出歩いた/遊んだ」ということに焦点があたっています。

例)धेरै नै हाँसियो नि।

「たくさん笑いましたよ。」という表現です。何か理由があって笑ったはずですが、そこに焦点があっているわけではありません。笑ったのは誰かですが、それも焦点ではありません。「笑った」ということが焦点です。

なお、動詞が表すものそのものは三人称単数として扱われます。それで、このような用法で受け身が用いられた場合、「सकिनुहुन्छ」や「सकिन्छु」といった活用はせず、最後は「छ」で終わるという点に注意が必要です。

動作主を明示する方法

さて、それでは逆に、動作主をはっきりさせたい場合は、どうすればよいのでしょうか?

2つの語(接尾辞)が用いられますが、どちらも同じ意味を伝えます。

① द्वारा (~によって)

例えば、「私はあの人に叩かれた」と言う場合、「म उसद्वारा पिटिएँ।」となります。

② बाट(~から)

例えば、「私はあの人から叩かれた」という場合、「म उसबाट पिटिएँ।」となります。

推量形での注意点

受け身であっても、推量形を取ることもあります。その場合、主語がない場合、もしくは主語が低尊敬か中尊敬の三人称の場合、「इ」だけでなく「ए」も入るという点に注意が必要です。とはいえ、この「ए」は何の意味も表しません。過去時制や条件節・仮定節で登場する「ए」とは異なりますので、注意しましょう。おそらく発音のしやすさのためのものでしょう。

例を挙げます。

例)पानी त्यहाँ पाइएला।(水はそこで手に入るだろう。)

動詞の活用は、「पाउनु → पाइनु → पाइएला।」となっています。主語は三人称低尊敬単数の「पानी」です。

例)तिनीहरू पक्रिएलाऩ्? (彼らは捕まるかな?)

動詞の活用は「पक्रनु → पक्रिनु → पक्रिएलान्」となっています。主語は三人称中尊敬複数の「तिनीहरू」です。

例) अर्को वर्षतिर गइएला।(来年あたり行くでしょう)

動詞の活用は「जानु → गइनु → गइएला」となっています。これは、主語が存在しないパターンの文です。

紛らわしい動詞に注意

さて、ネパール語で受け身は「इ」によって作られますが、動詞の中に「इ」が入っていれば何でもかんでも受け身だと考えて良いわけではありません。

もともとの動詞の作りの中に「इ」が入っているものがあります。例えば、「चिढिनु(いらだつ)」「सुम्पिनु(委ねる)」 「फर्किनु(戻る)」 「आत्तिनु(動揺する)」などです。

さらに、二つの動詞が接続されているものもあります。この場合にも「इ」が使われますが、受け身の範疇に入れることはできないでしょう。例えば、「गरिसक्नु(なし終える/ गर्नु+सक्नु)」「आइहाल्नु(すぐ来る/आउनु+हाल्नु)」「रोकिराख्नु(留め置く/रोक्नु+राख्नु)」「खाइरहनु(食べ続ける/खानु+रहनु)」などがあります。

まとめ

では、ネパール語の受け身をまとめます。

  • ネパール語の受け身は「इ」で作られる
  • 使役形でも受け身にできる
  • 基本的には、「इ」が付く以外に活用に変化なし
  • ただし、「जानु」「धुनु」「हुनु」などの例外も。特に「हुनु」には同じ意味で「होइनु」と「भइनु」の2種類が存在
  • 動詞の表すものそのものに焦点をあてる用法(客観化)がある(厳密には「受け身」ではない)
  • 動作主を明示するには接尾語「द्वारा」か「बाट」を付ける
  • 推量形では「इ」と一緒に「ए」が入ることも
  • 動詞の中に「इ」が入っていても必ず受け身とは限らない

次回は、習慣過去形です。お楽しみに!

(※当サイトを運営する合同会社アジア・パブリック・インフォメーションは、ネパール語翻訳のご依頼も承っております。詳しくは、弊社公式ホームページをご覧ください。)

編集部によるPick Up!
  • カトマンズで鳥インフル発生 3000羽以上を殺処分 (2021年2月2日公開)
  • 【コラム】文化や需要に合わせ進歩してゆくインド家電(2020年11月8日公開)
  • ヒマラヤ山脈はコロナ過でも観光客を楽しませていた(2020年10月30日公開)
  • ネパールの大気汚染が過去最悪レベルに (2021年1月16日公開)
  • 雨期のネパール、地滑り頻発のポカラ—カトマンズルートを行く(2020年9月8日公開)