
合同会社アジア・パブリック・インフォメーションがお届けする、本気でネパール語を習得したい人のための解説ページ。今回は命令形です。“命令形”という言葉のイメージからすると、自分は命令なんてする機会はないので必要ないと感じるかもしれませんが、「~してください」と指示を与える表現も命令形に含まれれてきますし、ネパール語においては家族内や友人間などでも普通に使用される表現です。
では、見ていきましょう。内容は以下のとおりです。
命令形の前提-主語は二人称
日本語では、「自分しっかりしろよ」と自分自身に対して命令形が用いられることがあります。「がんばれ、私。」とかもそうですね。言葉遣いはよくないですが、その場にいない人を対象として、三人称を用いて「あいつ、ちゃんとやれ」と心の中でつぶやくこともあるかも知れません。もっとも、三人称に対して命令形が用いられた場合には実質とはして命令しているわけではなく話し手の願望を表現しているわけですので、命令形と願望形の境目が薄まっている表現と言えるかも知れません。
そして、。一方、ネパール語においては、一人称や三人称を主語とした命令形は存在しません。自分自身に対して何かを命令する(言い聞かせる)時は、自分のことを「तिमी(君)」や「तँ(お前)」といった二人称で呼びます。そして、第三者に対する何か望みを述べる時には、命令形ではなく願望形が用いられます。
ネパール語の命令形は主語(文の構造上は主語ですが、実際には命令を受ける対象)が必ず二人称になります。
命令形の作り方
では、作り方をいつものように動詞のパターンごとに見ていきましょう。
命令形の特徴としては、他の形では主語の単複によって動詞の活用形に違いが生じなかった「तिमी」「तिमीहरू」において違いが生じるということです。意識しておきましょう。
最高尊敬について
最高尊敬の主語「हजुर」「मौसुफ」に関しては、願望形の時と同じように「…इबक्सियोस्」という活用が厳密なものです。しかし、本解説でこれまで行ってきたのと同じように「तपाईं」と同じように扱っています。「…इबक्सियोस्」は宮廷語のようなもので、一部の民族で例外的に用いられていることを除き、もはや一般的ではなくなっていると判断できるからです。「मौसुफ」に至っては、この単語が使われること自体が皆無といっていいほどになってきました。
それにしても、「हजुर」や「मौसुफ」に対しては命令形も願望形も同じ形を取るというのは、やはり最高尊敬の相手に対して命令するのははばかられる、ということだったのでしょうか。
「हुनु」の命令形
ネパール語動詞「हुनु」の主語に応じた命令形活用 | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「हुनु」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数・複数 | ー | म/ हामी/ हामीहरू | ー |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | हुनुहोस् |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | हुनुहोस् | |
単数 | 低 | तिमी | होऊ | |
複数 | 低 | तिमीहरू | होओ | |
単数 | 最低 | तँ | हो | |
三人称 | 単数・複数 |
低・中・高 |
यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | ー |
パターン①:原形の「नु」の前が母音「अ」
ネパール語動詞「फर्कनु」の主語に応じた命令形活用 | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「फर्कनु」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数・複数 | ー | म/ हामी/ हामीहरू | ー |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | फर्कनुहोस् / फर्कनुस् |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | फर्कनुहोस् / फर्कनुहोस् | |
単数 | 低 | तिमी | फर्क | |
複数 | 低 | तिमीहरू | फर्क | |
単数 | 最低 | तँ | फर्क् | |
三人称 | 単数・複数 |
低・中・高 |
यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | ー |
パターン②:原形の「नु」の前が母音「आ」
ネパール語動詞「खानु」の主語に応じた命令形活用 | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「हुनु」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数・複数 | ー | म/ हामी/ हामीहरू | ー |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | खानुहोस् / खानुस् |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | खानुहोस् / खानुस् | |
単数 | 低 | तिमी | खाऊ | |
複数 | 低 | तिमीहरू | खाओ | |
単数 | 最低 | तँ | खा | |
三人称 | 単数・複数 |
低・中・高 |
यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | ー |
パターン➂:原形の「नु」の前が母音「इ」
ネパール語動詞「सुम्पिनु」の主語に応じた命令形活用 | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「सुम्पिनु」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数・複数 | ー | म/ हामी/ हामीहरू | ー |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | सुम्पिनुहोस्/ सुम्पिनुस् |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | सुम्पिनुहोस् / सुम्पिनुस् | |
単数 | 低 | तिमी | सुम्पिऊ | |
複数 | 低 | तिमीहरू | सुम्पिओ | |
単数 | 最低 | तँ | सुम्पी | |
三人称 | 単数・複数 |
低・中・高 |
यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | ー |
「दिनु」 と「लिनु」について
これまでと同様、やはり「दिनु」と「लिनु」は少し特殊な形で活用します。以下のとおりです。
ネパール語動詞「दिनु」の主語に応じた命令形活用 | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「दिनु」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数・複数 | ー | म/ हामी/ हामीहरू | ー |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | दिनुहोस्/ दिनुस् |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | दिनुहोस् / दिनुस् | |
単数 | 低 | तिमी | देऊ | |
複数 | 低 | तिमीहरू | देओ | |
単数 | 最低 | तँ | दे | |
三人称 | 単数・複数 |
低・中・高 |
यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | ー |
ネパール語動詞「लिनु」の主語に応じた命令形活用 | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「लिनु」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数・複数 | ー | म/ हामी/ हामीहरू | ー |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | लिनुहोस् / लिनुस् |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | लिनुहोस् / लिनुस् | |
単数 | 低 | तिमी | लेऊ | |
複数 | 低 | तिमीहरू | लेओ | |
単数 | 最低 | तँ | ले | |
三人称 | 単数・複数 |
低・中・高 |
यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | ー |
パターン④:原形の「नु」の前が母音の無い子音字
これは、結果的にパターン①と同じ形になります。このパターンで主語が「तिमी」の場合に母音「अ」が命令形を表すことから、もともと単語の組成に母音「अ」が入っているパターン①と同じになるわけです。
ネパール語動詞「गर्नु」の主語に応じた命令形活用 | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「गर्नु」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数・複数 | ー | म/ हामी/ हामीहरू | ー |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | गर्नुहोस्/ गर्नुस् |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | गर्नुहोस् / गर्नुस् | |
単数 | 低 | तिमी | गर | |
複数 | 低 | तिमीहरू | गर | |
単数 | 最低 | तँ | गर् | |
三人称 | 単数・複数 |
低・中・高 |
यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | ー |
パターン⑤:原形の「नु」の前が「आउ」の音
ネパール語動詞「आउनु」の主語に応じた命令形活用 | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「आउनु」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数・複数 | ー | म/ हामी/ हामीहरू | ー |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | आउनुहोस्/ आउनुस् |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | आउनुहोस् / आउनुस् | |
単数 | 低 | तिमी | आऊ | |
複数 | 低 | तिमीहरू | आओ | |
単数 | 最低 | तँ | आ | |
三人称 | 単数・複数 |
低・中・高 |
यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | ー |
パターン⑥:原形の「नु」の前が母音「उ」の音
二文字からなるいくつかの動詞にこのパターンが存在します。例えば、「धुनु(洗う)」や「रुनु(泣く)」などです。この場合には、「ु」の部分が「ो」になります。
実は、普段はとても特殊な「हुनु」も、今回はこのパターンに収まっていますね。ぜひ、最初の表と見比べてみてください。
ネパール語動詞「धुनु」の主語に応じた命令形活用 | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「धुनु」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数・複数 | ー | म/ हामी/ हामीहरू | ー |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | धुनुहोस्/ आउनुस् |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | धुनुहोस् / आउनुस् | |
単数 | 低 | तिमी | धोऊ | |
複数 | 低 | तिमीहरू | धोओ | |
単数 | 最低 | तँ | धो | |
三人称 | 単数・複数 |
低・中・高 |
यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | ー |
万能の「नू」
こうして見てくると、注意を要するのはやはり「तिमी」の時だということが分かります。単数で「तिमी」のときは「अ/ऊ」、複数で「तिमीहरू」のときは「अ/ओ」となります。
こういった使い分けをしなくてもよければ、嬉しいですね。
そんな願いを実現してくれるのが「नू」です。動詞原形の「नु」を「नू」に変えるだけです。これで、命令形になります。すべての動詞に適用できます。最後に見た「धुनु」を例にとって見てみましょう。
ネパール語動詞「धुनु」の主語に応じた命令形活用(नू) | ||||
人称 | 単複 | 尊敬度 | 該当する主語 | 対応する「धुनु」の形 |
---|---|---|---|---|
一人称 | 単数・複数 | ー | म/ हामी/ हामीहरू | ー |
二人称 | 単数・複数 | 最高 | हजुर/ हजुरहरू | धुनू |
単数・複数 | 中・高 | तपाईं/ तपाईंहरू | धुनू | |
単数 | 低 | तिमी | धुनू | |
複数 | 低 | तिमीहरू | धुनू | |
単数 | 最低 | तँ | धुनू | |
三人称 | 単数・複数 |
低・中・高 |
यहाँ/ यहाँहरू/ उहाँ/ उहाँहरू | ー |
すべて同じパターンですね。これは楽です。
この形の用法
調べてみますと、この形はもともと低尊敬(当サイトでは日本人が単語の使い分けを把握しやすいように「低尊敬」としていますが、本来のネパール語文法では「中尊敬」と呼ばれます)の「तिमी」の命令形のようです。ですが、実際の場面では「तँ」や「तपाईं」に対しても使用されています。相手との間柄によっては「हजुर」に対しても使用できます。
どういうことでしょうか。
「तिमी पढ।」よりも「तिमी पढ्नू।」の方が相手に優しく響くようです。尊敬度が高くなるほど動詞の活用した形が長くなり、尊敬度の低下にしたがって活用語の形が短くなる傾向を考えると納得がいきます。
では、「तपाईं पढ्नुहोस्।」と言わずに「तपाईं पढ्नू।」と言うのは失礼にあたらないのでしょうか。相手によっては失礼になってしまうこともあるかも知れませんが、通常は親しみを感じているということが伝わります。相手が「हजुर」であっても使用できる理由もそこにあります。語尾を弱める「न」と一緒になって「तपाईं पढ्नू न।」という風に用いられることもよくあります。
命令形ではありますが、お願いや‟促し”に近いものになっています。
高尊敬の「…नुस्」の謎
上記のことを踏まえた上で、もう一つ考えておきたいのは「तपाईं」や「हजुर」を主語にした場合の命令形「…नुस्।」です。
地元の文法解説をあたってみても、この形は出てきません。しかし、実際の場面では極めて普通に使用されています。ネパールの報道機関もごく普通に使用している形です。いわば、謎の形です。
学者たちの位置づけではあくまで文法に沿っていない話し言葉なのかもしれません。ですが、実際には完全に浸透している用法だと理解しておけるでしょう。むしろ、本来の願望形「…नुहोओस्」が死語になりつつあり、本来の命令形「…नुहोस्」がその願望形(あるいは、命令形に属する請願形)の役割をになうようになりつつあり、その代わりに「…नुस्」が命令形としての地位を確立したと理解しておいて間違いないでしょう。
尊敬度最低の「आइजा」
さて、最後にもう一つ。最低尊敬の主語に用いられる「…इजा」という形について触れておきたいと思います。主語はもちろん「तँ」ですが、「来い!」と呼びつけるときに「आ!」ではなく「आइजा!」と言うことなどがあります。相手が自分の子供だったり、乳幼児だったりした場合に、はたまた動物に対して用いられます。単に「आ।」や「गर्।」と言うよりもさらに“悪い言葉”のようですが、しかしこれまた親しみを感じているがゆえの表現でもあるという側面も見過ごせません。
もちろん、ネパール語学習者としては、この感覚がつかめないうちは、動物以外には使わないのが無難でしょう。
まとめ
では、ネパール語の命令形のまとめです。
- 命令形は、二人称主語しかとらない
- 命令形の作り方は動詞の組成によって6パターン
- 原形の「नु」の前が「अ」あるいは母音なし→「तिमी」でも「तिमीहरू」でも動詞の最後は「अ」
- 原形の「नु」の前が上記以外→「तिमी」:動詞の活用は「ऊ」、「तिमीहरू」:動詞の活用は「ओ」
- 「दिनु」「लिनु」「धुनु」「रुनु」「हुनु」は特殊な活用
- 何にでも使える「…नू」は親しみを込めて
- 「तपाईं」と「हजुर」には、普段の場面では「…नुस्」が使われる
- 尊敬度最低の「आइजा」にも親しみが表現されていることがある
次回は、ネパール語の使役形を解説していきます。お楽しみに!
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