
合同会社アジア・パブリック・インフォメーションがお届けする、本気でネパール語を習得したい人のための解説ページ。今回は、ネパール語の否定形・否定形のつくり方、その③です。前回までで2回に分けて、否定文の基本的な作り方を解説してきました。今回は、ネパール語否定表現の細かいニュアンスや、ネイティブがよく使う表現を徹底的に掘り下げて行こうと思います。内容は以下のとおりです。
【目次】
この記事に登場する例文
- 例文1)私はネパール語も話せませんし、英語も話せません。
- 例文2)すべての人がネパール語を話すわけではない。
- 例文3)誰もネパールを話さない。
- 例文4)誰がいますか?→ को छ?
- 例文5)誰かいますか?→ कोही छ?
- 例文4-A)को छैन?→ 誰がいませんか?→ いないのは誰ですか?
- 例文5-A)कोही छैन?→ 少しの人もいませんか?→ 誰もいないんですか?
「ネパール語の否定文、ややこし難しすぎるよ…」と否定的になることなく、前向きに頑張っていきましょう!
否定を並列する「न…न~」
これまでも解説してきたとおり、ネパール語の否定表現を作る役割を担うのは、「न」ですね。日本語でも「~でもなければ…でもない」と言ったり、「○○も●●もない」と言ったように、否定語を2回連続して使用する表現があります。英語でもnot A, nor Bという言い方がありますね。ネパール語でも、「न」を2回連続して使用することによって、似たような言い方をします。
そして、この表現を間違えることなく使えるようになると、“通な感じ”が出てちょっと格好いいです。でも、日本人は間違えます。そして、ネパール人の中にも、この表現を言い間違えたり読んだり聞いたりした時に誤解することがあります。理由は後述しますが、まずは形から。
例文1)私はネパール語も話せませんし、英語も話せません。
訳文1-A)मलाई नेपाली बोल्न आउँदैन र इङ्ग्लिश बोल्न पनि आउँदैन।
訳文1-B)मलाई न नेपाली भाषा बोल्न आउँछ, न इङ्ग्लिश बोल्न आउँछ।
同じ一つの文の訳であることからも分かるとおり、訳文1も訳文2も同じ意味です。(実は、訳文2の言い方をする時にはもう少し別の表現が使われますが、まずは文のつくり方が分かりやすくするためにこう表記してあります。)
まず注目してほしいのは、訳文2の動詞です。動詞だけを単体で見れば、「आउँछ」という肯定形が使われています。これは、すでに否定を意味する「न」が文の先の方で表現されているためです。先に「न」を言っておきながら、動詞部分でまた否定形を使ってしまうと、聞く側にとっては「話せませんません」と言われているような違和感があります。この否定文では動詞(文末)は肯定形になる、ということをまずおさえましょう。
ここが、とても間違いやすいポイントです。ネパール人でさえネパール語が第一言語ではない人にとっては誤解を招くポイントとなるところですから、十分に意識しておくことが必要です。文末の動詞が肯定形になっていても、前に「न」があれば、実際には否定表現です。逆に、先に「न」と言っておきながら最後の動詞をまた否定形にするのは間違いです。早いうちにしっかり覚えてしまいましょう。
何のために並列するのか
さて、先ほどの訳文1も全く正しいネパール語ですし、実際によく使われる構文です。では、敢えて「न…न~」という表現は何のために使われるのでしょうか。
この表現が使われると、両方を否定しているのだということに重点が置かれます。そして、場合によっては、否定された2番目のものさえも否定しなければならない、という話者の側の否定的な感情が強く表れます。訳文1でも話し方によってそういう意味合いが表されることも十分にありますが、「न…न~」文はそういう目的で使用されます。
先ほどの訳文2には、「ネパール語なんて話せないし、英語(だって・さえも)話せません」といったような感情が滲む場合が比較的多くあるわけです。
それで、この表現とよく一緒に使われる「त」と「नै」
並列された後者の否定が強調されるため、実はこの構文ではよく「त」と「नै」も使用されます。これは両方とも、その直前の文節や単語を強調する語です。この場合「न」と「नै」が似ているため少し戸惑うかも知れませんが、こういった文では「न」は否定、「नै」は強調です。覚えておきましょう。
先ほどの訳文2は、こうなります。
訳文1-B-1) मलाई न नेपाली बोल्न आउँछ, न त इङ्ग्लिश नै आउँछ।
「नै」は「इङ्ग्लिश」を強調し、「त」が直前の「न」を強調しています。
さて、「त」が強調であるということは、「मलाई」を強調することもできるということです。「私なんてネパール語も話せませんし、英語だって話せません」と言ったような表現ですね。次のように言えます。
訳文1-B-2) मलाई त न नेपाली बोल्न आउँछ, न त इङ्ग्लिश नै आउँछ।
同じように、「नै」も強調ですので、必ずないといけないというわけではありません。
板挟みになって困っているといった状況や、にっちもさっちも行かなくなってしまったような状況のことがよく「न यता, न त उता(字義的に訳すなら、「こっちもダメ、あっちもダメ」)」と表現されますが、「नै」がなくても良いわけですね。
この並列の否定表現を「न…, न त ~ नै」という構文としてひとまとまりで覚えてしまっている方もおられるかと思いますが、こうして構造をしっかち理解すると柔軟な表現が可能になります。
動詞は省略もできる
さてさて、上で登場した「न यता, न त उता」ですが、動詞がありませんね。言わなくても分かる表現だということで、省略されているわけです。正式には「न यता जान मिल्छ, न त उता नै जान मिल्छ।」と言ったような表現ですね。他にも動詞はあり得ますが、会話の流れから、それは言わなくても分かるわけです。
今回の例文も、次のように訳すこともできます。
訳文1-B-3)मलाई त न नेपाली, न इङ्ग्लिश।
同じように、2番目の動詞だけを省略することもよくあることです。
訳文1-B-4)मलाई त न नेपली बोल्न आउँछ, न त इङ्ग्लिश नै।
いずれのケースも、省略された動詞は言わなくても伝わる、ということです。
通常の否定表現との併用
この「न」を使って否定文を並列させる方法は、必ずしも「न…न~」の形に限定されている訳ではありません。前半は通常の否定文で、それに続けて「न~」ということができます。次のような文になります。
訳文1-B-5)मलाई त नेपाली बोल्न आउँदैन, न त इङ्ग्लिश नै।
意味に違いはありませんが、こういったことも頭の片隅に置いておくことで表現の幅が広がることでしょう。
全部否定か部分否定か
次の2つの例文を見比べてみましょう。意味に違いがありますね。
例文2)すべての人がネパール語を話すわけではない。
例文3)誰もネパールを話さない。
例文2は部分否定と呼ばれるもので、例文3は全部否定と呼ばれるものです。例文3の場合は、ネパール語を話す人は0ですから、すべてが否定されているわけです。それに対して例文3では、ネパール語を話す人は100ではありませんが、0でもありません。否定されているのはある一定の部分だけなわけです。
困るのは、次のような文です。「すべての人はネパール語を話さない」。この文の場合、ネパール語を話す人は0だと言っているのでしょうか、100未満だと言ってるのでしょうか。意見が分かれそうなところです。
さて、これを前置きとして、話をネパール語に戻しましょう。ネパール語で「すべて」は「सबै」です。
これを使った「सबै मानिसले नेपाली बोल्दैन।」。これは、直訳すれば「すべての人ネパール語話さない」となります。これは全部否定でしょうか、部分否定でしょうか。
答えは、部分否定です。ネパールを話すのは「सबै」ではない、つまり、100%の人ではない、ということを言っています。
上記の例文2の訳文はこうなりますね。
訳文2)सबै मानिसले नेपाली बोल्दैन।
全く何もないということを言い時は、「सबै(すべて)」を否定しても全部否定にはならない、ということを意識しておきましょう。英語の「not everyone」 が「no one」ではないのと同じですね。
全部否定には、「केही」「कोही」「कुनै」「कसै」「कहिले」などを使う
では、全部否定はどのように言うのでしょうか。日本語の例文3にあるように「誰も」という単語を使います。ネパール語では「कोही」ですね。
「कोही」と関係する単語は「को」です。これは「誰」という意味の疑問詞で、「कोही」というのは比較的少数の不特定の人たちをさす単語です。全部否定にする場合には、この「कोही」という形が使用されて、「誰も」「誰にも」という意味になります。「ले」や「लाई」などの後置詞を伴う場合には、「कसैले」「कसैलाई」という形になります。
それで、上の例文3は、以下のように訳せるということになります。
訳文3)कसैले नेपाली बोल्दैन।
もちろん、「誰も」以外にも、否定文において「何も」という意味になる「केही」(関係する単語は「के」)、「どれも」という意味の「कुनै」、「どこにも」という意味の「कहीँ/कतै」、「決して(いつ何時も)」という意味の「कहिले」なども使えます。
否定文における「पनि(も)」の役割
「पनि」とは、日本語の「も」のことです。
全部否定の表現で使用される「केही」「कोही」「कुनै」「कसैले」といった単語とセットで、よく「पनि」が使用されます。日本語でも、否定文では「誰もいない」、「何もない」と言ったように「も」が使われますね。それとそのまま対応しますので、日本人にとっては馴染みやすいかと思います。
とはいえ、前述のとおり「कोही…否定」や「केही…否定」といった形でも、「誰も…ない」「何も…ない」という意味になります。では、「पनि」を付ける意味はどこにあるのでしょうか。
それは、強調です。日本語では全部否定の表現そのものに「誰も」「何も」と「も」が入っていますので、ネパール語で「पनि」が使用されようとされまいと、日本語訳には変化がありません。それで少し分かりにくくなってしまうかもしれませんが、「कोही छैन।」というネパール語の文章には元々「も」という要素は入っていません。直訳するなら「わずかな人いない」です。これを「わずかな人さえもいない」という風に強調したのが「कोही पनि छैन।」だというわけです。
では、「कोही पनि छैन।」という文を「わずかな人さえもいない」と訳すべきでしょうか、「誰もいない」と訳すべきでしょうか。あるいは「まったく誰もいない」といったような強調表現がいいでしょうか。これは話し方や文脈によります。そして、「कोही」にもの凄く強調を置きながら話せば、「पनि」を使わなくても「कोही छैन।」というだけで「まったく誰もいない」というような意味が十分に伝わります。
「कोही पनि」や「केही पनि」のようにセットで覚えてしまって、否定文には「पनि」が必須であるかのうに誤解しないよう気を付けましょう。
「को」を使った否定文と「कोही」を使った否定文、何が違うのか
ここで「को」と「कोही」の否定文における使い分けについて、ディテールに迫ってみましょう。
「को」は純粋な疑問詞で「誰/誰か」という意味です。それに対して「कोही」というのは、「ある人たち」や「何人かの人たち」といったような意味で、人や人数を特定しない表現です。人数としては0でも100でもありません。その中間で、比較的少数の人を指します。これは、「何/何か」という意味の疑問詞である「के」と「केही」でも同じことです。
それで、まず肯定文を考えてみると、「को छ?」と「कोही छ?」には以下のような違いがあります。
例文4)誰がいますか?→ को छ?
例文5)誰かいますか?→ कोही छ?
これを否定文にすると、次のような違いが出ます。ネパール語→直訳→自然な言い回し、の順で書きます。
例文4-A)को छैन?→ 誰がいませんか?→ いないのは誰ですか?
例文5-A)कोही छैन?→ 少しの人もいませんか?→ 誰もいないんですか?
もちろん、「कोही」の方は疑問文にすることなく、「कोही छैन।(誰もいません)」という平叙文にもできます。「को」の方は、それ自体が疑問詞ですから、「को छैन।」といったような平叙文にはできません。
ですが、「कहिले(いつ)」という疑問詞や「कुन(どの)」という疑問詞には「कोही」のような形がありません。それで、先ほどもちょっとだけ触れたように、「कहिले」はそのままで全部否定を作れますし、「कुन」は強調形の「कुनै」と言う形を用いて全部否定を作れます。「कहिले」も「कहिल्यै」という強調形が用いられることが多いです。また、「को」では「कोही」の代わりに「कुनै मानिस(どの人)」、「कहाँ(どこ)」や「कता(どっちの方向)」では、「कहीँ」や「कतै」の代わりに「कुनै ठाउँ(どこの場所)」という言い方を用いて全部否定を表現することもあります。
以下に、全部否定の際に用いられる単語と疑問詞との関係を表でまとめます。
疑問詞 | 全部否定の際に用いられる形(単語) |
---|---|
कहिले(いつ) | कहिले / कहिल्यै |
कहाँ(どこ) | कहीँ / कुनै ठाउँ |
कता(どっちの方向) | कतै / कुनै ठाउँ |
को(誰) | कोही / कसैले / कसैलाई / कुनै मानिस |
के(何) | केही |
कुन(どれ/どちら) | कुनै |
कस्तो(どんな) | जस्तो |
कसरी(どのように) | जसरी |
「कस्तो」→「जस्तो」と、「कसरी」→ 「जसरी」については、後日疑問詞と関係代名詞について解説する時に詳述する予定です。
まとめ
それでは、ここまで解説してきたネパール語表現のディテールについてまとめてみましょう。
否定の並列について
- 否定を並べるには、「न」を使う
- 否定の並列で「त」や「नै」が使われるのは、強調のため
- 否定を並列すると、どちらか一方が強調される場合がある
- 動詞を省略したり、通常の否定文と併用したりすることも可能
全部否定と部分否定について
- 「सबै…(否定)」は部分否定
- 全部否定には「केही」、「कोही」など、疑問詞とかかわりのある単語が用いられる
- 「पनि」は「も」と強調している
- 「को छैन?」と「कोही छैन?」の違いを意識しよう
ネパール語の否定表現のディテールについては、まだ語るべきことが残っています。次回は、二重否定、「…だからといって~ではない」、相槌で「はい」というか「いいえ」と言うか、否定を伝える単語の使い分け、否定語を伴った形容詞などについて取り上げる予定です。
どうぞお楽しみに。
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